救急外来でよくいらっしゃるのが、高所からの転落による頭部打撲のお子さんです。ちょっと見てなかった隙に落ちて激しく泣いている子ども。頭の中に何かあったらどうしよう!と思いますよね。と言っても、実は頭部打撲の子ども全員にはCTは撮影しません。被爆のリスクがあるからです。では私たち医師が、なんの写真も無い中でどういう目線で「大丈夫そうか」を見ているかをお伝えします。
頭を打ったときって何が怖いの?
頭部は頭蓋骨に守られているため、一見して大丈夫そうでも実は重篤な症状が隠れている場合があります。どのような状況が考えられるのでしょうか。
実は頭の中で出血している場合
頭蓋内(とうがいない)出血と言います。脳内出血だけでなく、くも膜下出血、硬膜外出血、硬膜外出血など出血部位によっていろんな種類があります。
頭蓋内の出血は何が恐ろしいかというと、じわじわと出血し続けて脳を圧迫することです。頭を打った直後、出血が少量で症状が出なくても少しずつ出血し続け、数時間後に症状が出ることがあるのです。
脳が傷ついている場合
脳自体が傷ついている場合もあります。脳は強く打ったところが傷つくこともありますが、頭蓋骨の中で反対側にぶつかり、受傷箇所の反対側が傷つくこともあります。脳が傷つくと、出血によって脳が圧迫される恐れもありますし、脳自体が腫れて脳全体が圧迫される恐れもあります。脳の圧迫は非常に恐ろしく、命に関わります。出血と同様、脳が傷ついた場合も受傷直後ではなく徐々に悪化していくことがあります。
頭蓋骨・顔面骨折がある場合
頭蓋骨の骨折があるからといって、必ずしも重症というわけではありません。多くの場合、頭蓋骨が折れても元の位置にとどまっていれば脳は損傷を受けません。しかし骨折によって血管が傷つくことで出血したり、髄液が漏れ出たり、骨折部位が圧迫して脳自体を傷つけることがあり、これは感染の恐れや脳へのダメージが考えられて危険です。また、骨折の箇所によっては、目の位置が少しずれて物が二重に見えたりします。
神経が傷ついている場合
目の神経が傷ついて、視力が落ちたりすることがあります。また、首に強い衝撃があった場合、頚椎損傷と言って首から下の運動に障害が出ることもあります。
どういう症状が出ると危ないの?
さて、たくさん怖いことを言いました。「そんな恐れがあるなら、頭打ったら絶対病院に連れていかなきゃ!」と思ったかもしれません。ただ、「むむ、これは危ないかもしれないぞ?」と思うサインがなかった場合、頭部打撲の多くは特に何も処置をせず、経過観察とすることが多いのです。そのサインをお伝えしますので、このサインが出たら、絶対にすぐ病院に行きましょう!
- パパ・ママと目が合わない、違和感がある
- 呼びかけたりしないと目を開けない
- いつもより興奮している、逆に反応が鈍い
- 頭を触ると明らかに凹んでいる
- 後頭部、頭のてっぺん、横の頭皮に血腫がある(おでこは入りません)
- 5分以上意識がなかった
- 3回以上吐いた
- 耳、鼻から液体が出てきた
- 殴られたみたいに目の周りが紫になった
- 痙攣した
- 3m以上の高さから落下した
たくさんあって分からない!となった場合は、「パパ・ママから見て違和感のある反応をしている」「いつもと違った様子である」ようであれば、病院受診しましょう!
自宅では何に気をつけたらいいの?
CT撮影は、子どもに対して被爆のリスクがあるために病院受診時点で明らかな異常を認めない場合には行いません。「検査してほしい」とおっしゃるパパ・ママもいらっしゃいます。CT撮影は良い面もあれば悪い面もあるため、わたし達医師はそのバランスを考えながら、検査するかどうかを決めているのです。
では、病院受診後、「今のところ問題なさそうですね」と帰宅となった場合、パパ・ママはもう何も気にしなくていいのでしょうか?答えはNOです。頭を強く打った場合、打った時点から24時間は下記の症状が出ないか近くで見守っていましょう。
- パパ・ママと目を合わさない、ぼーっとしている
- 声をかけないと目を開けない
- けいれんした
- 嘔吐した
- 手足の動きがおかしくなった
- その他明らかにおかしいと思うことがあった
こういった症状が出たきた場合は、受診した病院に連絡をして再受診すべきか聞いてみましょう。繰り返しになりますが、頭の中の怪我は後から症状が出てくることがあります。病院受診時点では分からなかったことが後から分かることも多々あるのです。頭を打ってから24時間は、パパかママが付き添っているようにしましょう。
うちでも息子が9ヶ月くらいの時にベビーベッドから落っこちたことがありました。 落ちた瞬間大泣き。パパと慌ててすぐに抱え上げて顔を見たら、わたしを見ながら抱きついてきました。ぎゅっと抱きしめながら、頭を撫で「すぐ泣いたということは、失神してない」、「目があったということは意識状態も良かった」、「頭の骨に凸凹はない」ことに安心し、病院受診はしませんでした。その後も特に変わった様子はありませんでした☺️
こんな風に、びっくりはしつつも、冷静に状況を見られると良いですね。
今回の主な参考文献
- 小児科ファーストタッチ 岡本光宏著
- 小児科当直医マニュアル改定第15版 神奈川県立こども医療センター